2025.03.07
グランドピアノがある2階では演奏会も実施
JR大月駅から徒歩1分とかからない「月カフェ」は、シェイクスピアの生家を模した洋館。その壁にはツタが伸び、店の前には3階まで届きそうなイタリアンサイプレスとミモザの大樹が立つ。ミモザは春になると黄色い花を咲かせ、来客を迎える。
オーナーの天野洋さん(82)は店名やコンセプトを変えながら実に60年にわたって、同駅前に店を構えてきた。月カフェは自身にとって最後のカフェだといい、「『美しい田舎の自然の中にあるカフェ』という自分の思い描く理想の店」と胸を張る。
都内の大学に通っていたが、家業を継ぐはずだった弟の死去を機に帰郷。所属していた美術部の部室のような、仲間が集える場所として、同駅の目の前にカフェをオープンした。その後、若い男女が集う店にアレンジして、従業員も女性中心に。「ここで出会い結婚したケースは100組にも上る」と振り返る。
そして次は、フランス大使館で料理を担当していたシェフを招き、本格的なレストランも併設。その店は、2012年に同駅前にロータリーが設置されることになり閉店。場所を現在地に移して、月カフェの新装開店となった。
店名は、友人であるデザイナーの永井一正さんの「言いにくいからこそ印象に残る」という助言で決まった。草木が茂る外観とはうってかわって、窓からの陽光と白い壁で明るい店内はジャズやクラシックが流れる。
1階は個人客が寛げるスペースで、カウンター席も用意。グランドピアノを設置している2階は会食などグループでの利用が多く、定期的に演奏会も開いているという。店内の至るところに絵画が飾られ、レコードも並ぶ。いずれもコレクターなどからの寄贈。また食器や家具の中には、60年前から現役のものもある。
メニューは、ブレンドコーヒーやエスプレッソ(いずれも500円)のほか、おすすめはシナモンスティックを添えたカプチーノ(800円)で「理想に近い本物の味」という。
60年前から唯一残っているコーヒーカップで提供されたカプチーノ
食事は東京・西麻布で洋食店を経営していた料理人が担当。ビーフシチュー(2200円)などが好評という。リピート率が高いのはBLTサンドイッチ(1100円)で、6枚前後重ねたベーコンと新鮮なレタス、厚めに切った完熟トマトを挟んでいる。「定番だからこそ手を抜かない」一品だ。
天野さんは「カフェは総合芸術。接客も料理も調度品も、美しく調和していることが理想」と話す。その人柄と、店の居心地の良さにひかれてか、企業経営者ら県外の常連客も多い。
ボリューム満点のBLTサンドイッチ
大月市大月1丁目3の20
☎0554(23)2323
営業時間…カフェ午前8時から同11時/レストラン午前11時から午後2時、同5時から同9時
定休日…火曜