《直言》山梨地域経済概論 ㊦

2024.10.18

《直言》山梨地域経済概論 ㊦

山梨地域経済概論㊤では、甲府商科専門学校で筆者が担当している「山梨地域経済概論」の背景について述べたが、今回は具体的な取り組みを紹介する。

この授業は2017年から始まった必修科目である。対象は会計情報科と情報処理科の1年生全員で、毎年50名ほどが受講している。前後期各17回の通年科目で、授業時間は50分。

目指すところは社会人基礎力の育成である。これは、前回説明した山梨学院大学での取り組みを踏襲している。授業はPBL型(課題解決型)で、学生が自ら課題を発見して解決策を提言する。具体的には、教員側が三つないし四つのテーマを設定し、受講生はその中の一つをグループごとに選択する。一つのグループは5人程度の学生で構成され、毎年12ほどのグループがテーマ別にプロジェクトを推進している。各テーマを選択するグループ数は均等になるように調整が行われるが、グループの希望を優先し、学生の主体性を引き出すようにしている。テーマは、例えば山梨県の主要産業である「観光」「ワイン」「ジュエリー」などである。

授業では、先ず選択したテーマに関する現状分析を行い、課題を考え、最終的にはその解決策を提言する。現状分析には、「地域経済分析システム(RESAS=リーサス)」やインターネットを積極的に活用するようにしている。

講師は私一人ではなく、テーマごとに学内の教員が割り振られている。外部講師としては、過去には山梨中銀経営コンサルティング株式会社の社員も担当し、リーサスの使い方や、プロジェクトにおける経営戦略的なアドバイスを行った。また、各テーマの専門家にも、毎回ではないが授業に来てメンター的な役割を担ってもらっている。外部からの刺激は、受講生が積極的にプロジェクトに取り組むためのインセンティブと考えている。

後期前半に中間報告会を行い、後半に最終報告会を行う。そして、最終報告会において、テーマごとに一番評価が高かったグループが、そのテーマの代表として、成果発表会でプレゼンする仕組みになっている。成果発表会には学外の方も招待し、ここ数年は甲府市総合市民会館で行っている。学内の評価は、受講生全員と担当教員の他に、学内の先生方にもお願いしている。このように授業の中に競争を取り入れ、学生のやる気に繋げるようにしている。

企業との連携も積極的に行っている。21年度は株式会社フォネットと、そして22年度はジット株式会社と連携して、それぞれ四つの社内事業をテーマに、プロジェクトを推進した。そして今年度は、NTT東日本山梨支店と連携している。前期の早い段階で、五十嵐塁支店長に企業の活動内容などを講義していただき、現在「教育」「農業」「環境」の三つのテーマでプロジェクトを推進している。ほぼ隔週で、三つのテーマに各2人ずつ合計6人の社員が参加して、学生にアドバイスを行っている。

その中の一人が深沢優奈さん。21年度にこの授業を受講した卒業生である。卒業後、NTT東日本に就職し、今では社員の一人としてこの授業に参加している。先日開催された中間報告会では、素晴らしいコメントを後輩たちに送っていた。この授業で学んで、地域の企業に就職し、これまでの経験を母校の学生に還元している。地域における学びの好循環と言えるのではないだろうか。

現在、甲府商科専門学校の校長は井上耕史先生で、22年度に前校長の奥田正直先生から引き継いだ。そして、この授業も奥田先生から引き継ぎ、井上校長自ら取りまとめを行っている。山梨大学の教職大学院で教えた経験があり、そこでの知見をこの授業に活かしている。例えば、振り返りの重視が挙げられる。毎回の授業の後に、学生に振り返りシートの提出を義務付けている。授業を振り返ることにより、学びの定着を図っている。また、授業の前後に、スタッフミーティングを行っている。先ず当日の授業の狙いを確認し、授業後は当日の授業を振り返り、次回以降の授業に活かしている。

このように、毎年進化を遂げている山梨地域経済概論であるが、地域の力で学生を教育し、学生の力で地域を元気にするといった「地域における学びのモデル」に成長することを期待している。

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