2024.08.30
今年1月の能登半島地震をはじめ、7月の大雨では東北の日本海側に甚大な被害を及ぼした。また、8月8日に発生した宮崎県での震度6弱の地震により、気象庁は初となる南海トラフ地震の臨時情報を発表。本県も想定震源地域内として注意喚起させるなど、自然災害はいつ、どこで発生するかわからない。9月は台風の上陸も予想され、いま一度、防災意識を高める必要がある。テレビ山梨「スゴろく」出演中の気象予報士で、本県在住で史上初の気象防災アドバイザーの米津龍一さんが「災害への備え」を解説する。
「山梨は山が大雨から守ってくれるし、災害は起こらないからきっと大丈夫。」
山梨に来て5年目になりますが、何度もこのような言葉を県民の方から聞いたことがあります。実際には1959(昭和34)年の台風7号、15号(伊勢湾台風)の影響で死者は100人を超え、66(同41)年の台風26号(足和田災害)では足和田村で土石流により175人の犠牲者が出ました。南アルプスや富士山が災害から守ってくれる根拠はどこにもありません。
また地震に関しては、今月8日に宮崎県で震度6弱の揺れを観測し、気象庁は南海トラフ地震に関連した初の臨時情報を発表しました。山梨県の被害想定によると、「地震の規模がマグニチュード9クラスの場合、中・西部で震度6強から6弱の揺れが起き、一部の地域では最大震度7の強い揺れが想定される」としています。そして、この揺れによって出る死者は最大約3000人と言われており、山梨に住む私たちにとっても他人事ではありません。
そこで必要なのは普段からの備えです。気象は予測ができるため、数日前から心構えができます。一方地震は予測ができないため、日ごろからの備蓄や耐震対策などが一層重要となります。「まさかこんなことになるなんて」と後悔しないよう、大切な命や財産を守るために役立つ知識をお伝えします。
過去、山梨で起きた水害のほとんどは台風が関係しています。大雨の原因は、台風本体から雨雲の元となる暖かく湿った空気(暖湿気)が流れ込むためです。問題は台風がどのコースを通るか。台風は反時計回りに風が吹くため、山梨の西側、もしくは静岡県から山梨県を北上する場合は、山梨に暖湿気が入り込みやすく、災害級の大雨となるおそれがあります。山梨は山で囲まれていますが、南からやって来る雨雲は富士川を通って北上するため、甲府盆地でも大雨となるのです。実際、59年の台風7号では、甲府はたった1日で160・3㍉㍍の雨(8月1カ月で降る雨量の約1・2倍)が降りました。伊勢湾台風、足和田災害がもたらした大雨はまさにこのパターンでした。
さらに前線が山梨の北側に位置している場合は、前線に向かって暖湿気が流れ込むだけでなく、台風本体からの暖湿気もダブルで入ります。それにより雨量が増え、災害のリスクが高まるため注意が必要です。
避難とは「難を避ける」と書きます。例えば、マンションの高層階に住んでいる人が床上・床下浸水や洪水の被害に遭う可能性は限りなく低いですよね。
つまり避難をする必要がない場所にいる人は避難先に移動の必要がないため、安全な場所にとどまること自体が「避難」となるのです。
避難が必要かどうかを判断するには?
災害が予想される前の段階でハザードマップ(ある災害が発生した時に、危険と思われる箇所や災害時の避難場所などを地図にまとめたもの)の確認が必要です。これはインターネットで確認ができますし、各自治体にも置いてあります。避難場所と聞くと、学校や公民館などを思い浮かべる方が多いと思いますが、知り合いや親戚の家、ホテルなど災害の警戒区域に当たらなければそこに身を寄せることも避難となります。その上でどのルートを通れば危険な場所を避けられるかなど、避難経路を事前に決めておくことも重要です。
避難行動には、自宅外の安全な場所へ移動する「水平避難(立退き避難)」と、自宅の2階以上など屋内でより安全な場所へ移動する「垂直避難(屋内安全確保 )」があります。
基本的に被災までに十分時間がある場合は水平避難。土砂災害や水害などの災害が既に発生している場合は、避難所などの安全な場所へ移動することが、災害に巻き込まれる可能性を高めるため垂直避難が最適となる場合があります。特に、大雨や夜間における避難は危険を伴うため、できるだけ明るいうちに避難をする必要があります。
大雨による災害に関して、5段階で警戒レベルが分かれています。
災害発生の危険度が高くなるほど数字が大きくなり、レベル3以上は市町村から発令されます。レベル5が出た場合は既に安全な避難ができず、命の危険があるため、レベル5が出るのを待ってはいけません。原則としてレベル4までに避難完了の必要があります。