《直言》地方創生10年

2024.07.05

《直言》地方創生10年

2014年6月14日、島根県、鳥取県を視察した安倍晋三首相(当時)は、自らを本部長とする地方創生本部を立ち上げ、重要課題である地域の活性化を進める方針を表明した。公益財団法人「日本生産性本部」が設立した日本創成会議・人口減少問題検討分科会が、前月8日の記者会見で公表した分析が大きな注目を集める中での、鮮やかな政治の一手であった。


消滅可能性都市

同分科会の座長は、かつて、2007年の第1次安倍改造内閣で総務大臣に就任した、増田寛也氏(前・岩手県知事、現・日本郵政社長)である。氏が率いる分科会は、20〜39歳の若年女性人口が減少し続ける限り総人口の減少も続くとし、2010年から40年までの30年間で若年女性人口が5割以下に減少すると予測される896の地方自治体を「消滅可能性都市」、そのうち40年時点で人口が1万人を切ると予測される523自治体は消滅可能性が高いとし、「ストップ少子化・地方元気戦略」を提言した。山梨県では、16市町村が消滅可能性都市とされた。

14年9月の内閣改造で石破茂氏が新設の地方創生担当大臣に任命され、首相を本部長とし全閣僚が本部員となる「まち・ひと・しごと創生本部」を設置、11月には「まち・ひと・しごと創生法」が制定された。同法に基づき、国、都道府県、市区町村は、まち・ひと・しごと創生(地方創生)すなわち①国民が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成②地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保③地域における魅力ある多様な就業の機会の創出—を一体的に推進することとなった。

創生法は、人口の現状・将来の見通し(長期ビジョン)と地方創生の目標や施策の方向性などを示す「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を国が定め、それを勘案して都道府県や市区町村がそれぞれ地方版総合戦略の策定に努めるものとした。

14年12月に閣議決定された長期ビジョンは、若い世代の結婚・子育ての希望が実現した場合の出生率(国民希望出生率)1・8への向上や、60年時点での総人口1億人程度確保を打ち出した。それを踏まえた国の総合戦略は、①地方における安定した雇用を創出する②地方への新しいひとの流れをつくる③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる④時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する—の四つの基本目標を掲げた。国の総合戦略は、年次改定、19年の第2期総合戦略の策定、デジタル化を強調する22年の「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(デジ田総合戦略)への衣替えと変遷してきたが、基本目標の方向性は維持されている。


没個性の地方版

地方版総合戦略の策定はあくまで努力義務であるが、地方創生関連予算による国の財政支援は基本的に戦略で定める事業を対象とするため、15年度末には全都道府県と1737市区町村が、19年度末には全自治体が策定を完了した。国の総合戦略の期間が5年であることに倣い、多くの自治体では現在、第2期総合戦略に基づく取り組みを推進中であり、国のデジ田総合戦略を勘案した見直しも24年度中に7割近い自治体が完了させる見通しである。

地方版総合戦略に盛り込まれる事業の数や内容は様々であるが、基本目標①に関しては就職支援、就農支援、企業誘致、観光振興など②に関しては移住支援金、空き家バンク、お試し住宅、シティプロモーションなど③に関しては婚活イベント、妊産婦支援、不妊治療費助成、保育サービスの拡充など④に関しては医療体制・福祉サービスの拡充、公共交通網の整備、生涯学習、多文化共生社会の推進など—が定番である。

「まち・ひと・しごと」は多くの事物と関わりがあるため、地方創生の取り組みは良くも悪くも普遍化し、日常化した。約1800の地方版総合戦略に位置づけられた事業の数は膨大で、当然、一定の成果を収めた成功事例もそれなりに生まれた。自治体による差が大きいとはいえ、事業を立案する職員の意識の高まりや能力の向上にがったり、関係主体の連携や協働を強化する機運が醸成されたりした例もある。

他方、「地方」創生という言葉の響きとは裏腹に、大都市圏を含む全ての自治体の取り組みとなり、力点がどこにあるのか不明瞭になった感は否めない。また、国の総合戦略を勘案して策定するという創生法の規定に加え、国の技術的助言やコンサルタントの計画策定支援により、没個性の地方版総合戦略も少なくない。結果の検証が求められるため、短期間で何らかの成果が得られそうな事業への選好も見られる。


出生率低下進む

若年女性人口の減少率で消滅可能性を論じることには批判も多いが、増田氏が副議長を務める民間の「人口戦略会議」が24年4月に公表した最新の分析では、全国で744自治体(14年の分析対象外の福島県の自治体を除くと711)、山梨県では11市町村が「消滅可能性自治体」とされた。自治体数だけ見ると改善の兆しが見られるが、分析のベースの将来推計人口における外国人入国超過数の影響が大きく、少子化基調に変化はないという。

実際、23年時点で、国民希望出生率1・8に対し1・20、山梨県でも県民希望出生率1・87に対し1・32と、合計特殊出生率の低下傾向はむしろ強まっている。また、15年と22年の市区と町村の住民基本台帳による人口動態を見ると、増加傾向にある外国人住民とは対照的に、日本人住民の人口増減、自然増減、社会増減は全体的に悪化傾向にある。「しごと」については地方でも人手不足が問題となるなど変化も見られるが、求人側と求職側とのミスマッチは依然大きい。

10年間の試行錯誤は、東京圏への一極集中や出生率の低下といった構造的課題について、個々の自治体の地域を磨く努力や競い合いだけでは解決できないことを、改めて白日の下にした。地方からの急激な人口流出である過疎の発見と過疎(過密)対策の本格化から約60年、東京一極集中への処方箋として首都機能移転が真剣に議論された時分から約30年、地方創生の大号令から10年。いつまでも解けない宿題は、問題の難しさ故だろうか。それとも、宿題の取り組み方に問題があるのだろうか。

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