《直言》JAと農家の現在地と今後

2025.06.27

《直言》JAと農家の現在地と今後

小泉進次郎氏が農林水産大臣に就任して以来、政府による備蓄米の放出が積極的に行われている。従来の一般競争入札ではなく、随意契約により小売業者へ直接販売されることで、市場におけるコメの流通が活性化している。随意契約によって放出されたコメの総量は、現時点で約50万トンにのぼる。

小泉氏の就任以前は、一般競争入札を通じて約31万トンが放出されていたが、落札者は主にJA全農(全国農業協同組合連合会)や米穀卸売業者であった。こうしたコメが現在も十分に市場で流通していないことから、JA全農に対する批判の声も上がっている。
主な批判としては、「JA全農は本当に消費者や農家のために機能しているのか」という疑問であり、組織運営における独善性や不透明性を指摘する意見もある。
一方で、地域で実際に活動しているのはJA(農業協同組合)であり、通常は市町村単位などで運営されている。正式名称は「〇〇農業協同組合」で、県内には八つのJAが存在している。例えば「笛吹農業協同組合」で、通称「JAふえふき」として知られている。
JAの主な役割は、農家への営農指導(技術支援)、資材や肥料の販売、農産物の集荷・出荷などである。JAに対しても、「買い取り価格が安い」「手数料が高い」「資材や肥料の価格が高い」といった批判があるが、実態はどうなのだろうか。
山梨県庁農政部の職員で、技術士(農業部門)でもある千野正章氏によれば、JAは「非常にありがたい存在」であるという。千野氏自身も兼業農家として農業に従事しており、出荷先はJAだ。売り先を自ら探す必要がないことは、特に小規模な農家にとって大きな助けとなっている。また、肥料なども連絡すればすぐに届けてくれるなど、利便性も高い。量販店の方が安価な場合もあるが、JAの価格も適正であり、千野氏が関わる農家の多くも、JAに対して同様の評価を持っているという。
一方、JAに依存しない経営を実践しているのが、株式会社「アグベル」の丸山桂佑氏である。山梨市で60年以上続くブドウ農家を継承した丸山氏は、品質の高いブドウをより多くの人に届けたいという思いから、自ら販路を開拓し、海外市場にも目を向けてきた。独自に販売・輸出を行うなかで生産量に限界を感じ、他の農家からもブドウを買い取り、輸出を行っている。そのために独自の選果場も設置し、JAより高い価格でブドウを買い取るとともに、農家が従来行っていた箱詰め作業なども自社で担っている。
ただし、JAをまったく利用しない農家は少数派であり、多くの農家はJAとの取引と独自販路を併用しているのが実情である。
JAに出荷するか、自ら販路を開拓するかは、農家の自由である。今後は、丸山氏のように若い世代が農業を継承し、販路を切り拓いていくケースが増えると考えられる。インターネットの普及も、こうした動きを後押しするだろう。
一方で、JAとしても取引農家の減少を黙って見過ごすわけにはいかない。組織として生き残るためには、何らかの対策が求められる。その一つの方向性として、「新たな価値の創造」が挙げられる。
JA梨北では、「梨北米」というブランドを確立している。JA梨北管内で生産され、JA梨北に出荷されたコメを「梨北米」と称し、「梨北米コシヒカリ」「梨北米農林48号」「梨北米武川コシヒカリ」など、複数の品種がブランドとして展開されている。
もっとも、「同じコメであっても、JA梨北を通さなければ梨北米と名乗れない」といった批判もある。しかし、JA梨北がブランド価値を高め、独自に販路を拡大し、農家から高値で買い取るようになれば、より多くの農家がJAへの出荷を選ぶようになるだろう。
また、担い手の確保や出荷量の安定、市場へのプロモーションを目的として、JA自らが子会社を設立する例もある。JAふえふきの子会社「アグリコネクトふえふき」がその一例である。
このように、今後はJAと農家の双方が、共に利益を増やしていくための戦略的な取り組みが求められていくのではないだろうか。


(山梨総合研究所 理事長 山梨学院大学 名誉教授 今井 久)

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