《直言》関税とコメ危機 ~保護政策の限界と日本の選択

2025.04.25

《直言》関税とコメ危機 ~保護政策の限界と日本の選択

アメリカのトランプ大統領による「相互関税」発動のニュースは、世界に大きな衝撃を与えた。約180の国と地域の関税率が算出され、その数値に基づいて相互関税が課されることとなった。さらに、関税率が個別に明示されていないすべての国・地域に対しては、一律10%の関税が課された。

4月5日にはこの一律10%の関税が発動され、9日には相互関税が追加措置として各国に対して発動される予定だった。しかし、報復措置を講じない国や地域に対しては、相互関税の適用が90日間停止された。日本の関税率は24%と算出されたが、その算定方法が大まかであるとの批判も多く寄せられている。

相互関税発動の発表の際、トランプ大統領は「日本はコメに700%の関税をかけている」と発言し、物議を醸した。実際には、日本のコメに対する関税は税率ではなく、1キログラムあたり341円という定額制で設定されている。2005年のWTO(世界貿易機関)における貿易自由化交渉の際、農林水産省は当時の国際価格に基づき、この関税を税率に換算すると約778%に相当すると説明した経緯があるが、のちに280%に修正された。

いずれにせよ、1キログラムあたり341円というのは非常に高い関税であり、現在においても海外からのコメ輸入はほとんど進んでいない。日本政府はこの関税水準を長年にわたって維持しており、すなわち日本のコメおよびコメ農家を保護する政策を堅持してきたのである。

にもかかわらず、コメの需要は減少の一途をたどっている。日本の主食用米の1人あたり年間消費量は、1970年代には約100キログラムであったが、2020年代には約50キログラムにまで減少している。これは人口減少と相まって、国内全体のコメ需要を大幅に縮小させる大きな要因となっている。

コメの需要減少に伴い、日本の主食用米の生産量も一貫して減少傾向にある。これは国の政策や社会の変化を反映したものであり、特に1970年代以降は計画的な生産調整(いわゆる減反政策)が進められてきた。1970年代は約1400万トンであった主食用米の年間生産量は、2020年代は約700万トンにまで減少している。このように、日本のコメ生産量は過去50年間で約半分となり、その背景には政策、人口構造、消費傾向などの複合的な要因が深く関係している。

こうした中で、現在の日本ではコメの不足が深刻化しており、それに伴ってコメの価格も上昇傾向にある。この傾向は今後も続くと見込まれており、主な要因としては、気候変動による不作と生産構造の変化が挙げられる。店頭やインターネット上でもコメの価格上昇が確認されている。

トランプ大統領による相互関税の発動は、アメリカに対する各国の関税に対する報復措置であると同時に、関税そのものへの批判とも受け取れる。経済学においては、関税のない自由貿易が資源配分の効率性において優れていることが理論的に証明されている。しかし、各国にはそれぞれ守るべき国内資源や産業が存在しており、自由貿易が常に最適とは限らない。

日本はこれまで一貫して、コメとコメ農家を保護してきた。コメは日本人にとって主食であり、戦略物資として位置づけられている。この点を踏まえると、今後も一定の保護政策を継続する必要があると筆者は考える。

とはいえ、現在の日本ではコメ不足が深刻化し、コメ価格も上昇傾向にある。また、海外には安価で高品質なコメも存在している。関税を引き下げるのではなく、ミニマムアクセス枠の活用やその数量の柔軟な調整を通じて、迅速な輸入を行うことが現実的な対応ではないだろうか。

先日発生したETCシステムの障害では、NEXCO中日本管内の広範囲で料金所の正常な課金処理ができなくなった。対応の遅れが指摘され、危機管理の不備が明らかとなった。

コメ不足への対応についても、同様に迅速かつ柔軟な対応が求められる。備蓄米の放出にも時間を要しており、依然としてコメ不足は解消されていない。関税によって国内のコメを守る姿勢は理解できるが、コメ不足という緊急事態に際しては、日本政府が機動的かつ的確に対応し、必要に応じて迅速に輸入措置を講じることも求められるのではないだろうか。

なお、本稿の詳細は、4月30日に山梨総合研究所から配信予定の「News Letter」に掲載される。山梨総合研究所のホームページからも閲覧可能である。


(山梨総合研究所 理事長 山梨県立大学 特任教授 今井 久)

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