2024.12.27
山梨県には、二つの「ユネスコエコパーク」が存在している。「南アルプスユネスコエコパーク」と「甲武信ユネスコエコパーク」である。現在、日本には10のユネスコエコパークが存在し、そのうちの二つが山梨県にある。そのため、名前を聞いたことのある人は結構いるのではないかと思うが、その実態について理解している人は案外少ない。
ユネスコエコパークは、「生物圏保存地域」であり、生物多様性の保全、持続可能な開発、学術研究支援を目的として、1976 年にユネスコが設定した。豊かな生態系を有し、地域の自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域であり、現在の登録地域数は134か国748地域である。山梨県に二つもあるということは、山梨県がいかに豊かな自然に恵まれているかの証でもある。
ユネスコエコパークには、自然環境を守る「保存機能」、調査・研究や教育活動を行う「学術的研究支援機能」、自然環境と調和した地域の持続可能な発展を図る「経済と社会の発展機能」の三つの機能がある。そしてこれらを果たすために、三つのゾーンを設定することが義務付けられている。核心地域、緩衝地域、そして移行地域である。
甲武信ユネスコエコパークの場合、核心地域は甲武信ケ岳と周囲の山々の山頂や尾根を含んだ一帯であり、緩衝地域はおおむねその周りの森林地帯である。そして、移行地域には、さらにその周りにある人間の生活圏が含まれている。甲府駅の北口から武田通りを北上し、山の手通りを過ぎたあたりは、既に移行地域である。
このように、ユネスコエコパークは我々の生活のすぐ近くに存在している。そんなユネスコエコパークの美しい自然や、エコパーク内の多様な歴史や文化を学ぶ講座が山梨県立大学の「ネイチャーガイド演習」である。学生と社会人の垣根を超えた実践的教育プログラム「PENTAS YAMANASHI」の科目であり、担当は吉田均先生。
先日、この講座のフィールドワークに同行した。受講生は、山梨県立大学の学生10人、社会人1人と高校生1人。積翠寺から深草観音まで、往復約5キロの山道をゆっくり歩いてきた。甲武信ユネスコエコパークの移行地域である。
積翠寺は武田信玄が生まれた場所であり、先ずは武田信玄の歴史を学び、途中では自然やその地域の歴史などの話を聞きながら散策した。そして深草観音では山岳信仰についての説明を受け、いたるところに存在する観音像を見て回った。以前通ったことのある山道であったが、その際は自然の美しさは満喫したものの、歴史や文化、そして山岳信仰についてはほとんど頭になかった。今回、ガイドの方と吉田先生の説明を聞きながら歩くことによって、新たな学び、そしてたくさんの気づきが得られた。身近な場所でも、意識を変えることによって、違って見えてくるものがあると感じた。
来年度は、吉田先生に代わって筆者がこの講座を担当する予定である。ユネスコエコパークなど、山梨県の自然の中に存在する様々な魅力を学生や社会人に伝えていきたい。
(山梨総合研究所理事長・山梨学院大特任教授 今井 久)