2024.11.15
8年に1度大発生し、かつてJR小海線の電車をスリップさせるなど、騒ぎを起こした「キシャヤスデ」。実は90年代以降、県内の発生数が年々減少の一途をたどっている。今年は8年周期の「当たり年」であるが、線路付近での目撃情報も少ないという。その原因や発生数の推移を追った。
キシャヤスデは、オビヤスデ目ババヤスデ科の節足動物で、成虫は体長35〜45㍉ほど。50年以上キシャヤスデを研究している、山梨英和高非常勤講師の山本紘治さんによると、古生代から約3億年生き延びてきた日本固有種で、中部山岳地帯を中心に生息。一般のヤスデ類は1〜3年で成虫となるのに対し、キシャヤスデは土壌中で幼虫期を過ごし、1年に1回、計7回脱皮を繰り返し、8年目の秋に成虫となり生殖能力を持つ。同一地域には同齢の個体しか存在せず、交尾相手を探すために地表を大集団で移動することで大発生が起こる。
1976年と84年は大発生した。しかし山本さんによると、8年前に1平方㍍あたり10匹くらい確認できた場所が、今年は2、3匹くらいになったところもある。16年前は8年前より多く「2000年頃から段階的に減少している」という。
また、県立八ケ岳自然ふれあいセンターの古岩基さんによると「センター周辺では今年は9月3日に初めて確認された。発生量としては森を歩いていて頻繁に目につく程度」という。同センターよりさらに標高が高い場所(標高1500㍍以上)でより多くの発生が見られた。サンメドウズ清里スキー場付近などだ。
発生地域の標高が以前と比べかなり高くなったため、小海線沿線での発生が大幅に少なくなり、スリップの被害は無くなったとみられる。
山本さんは「温度変化に弱い虫。温暖化による気温上昇に適応できなくなってきているのではないか」という。生息に適した地中の温度は「14度から23度くらい」。つまり、温暖化によって標高が低いところから姿を消していき、もともと高い場所に生息していたものが生き残っている状態とみられている。
一方で、山本さんは、温度変化以外の減少原因として「線状降水帯の多発により、集中豪雨が増えたことが関係しているのでは」と指摘する。死んでいる個体を調べた結果、溺死しているものが多く、土壌の水分量が大幅に増えたためと考えられる。ほかにも台湾原産の外来種ヤンバルトサカヤスデに勢力を奪われている可能性もあるという。
キシャヤスデは落ち葉や朽木を食べるので、農作物や建築材への被害は無く、噛んだり刺したりすることも無い。古岩さんは「むしろ『分解者』として生態系で重要な存在。落ち葉などを食べて、そのあと出すフンを植物が吸収し成長する。とくに寒冷地では分解者が少なく、森の栄養循環の一翼を担っている」と話す。
木々の成長や生態系のバランスに悪影響を与えてしまう懸念もある。次回8年後の発生状況を慎重に見守っていく必要がある。
サンメドウズ清里スキー場近くで発生したキシャヤスデ(キープ協会提供)