《直言》山梨地域経済概論 ㊤

2024.09.27

《直言》山梨地域経済概論 ㊤

筆者は甲府商科専門学校で「山梨地域経済概論」という授業を担当している。2017年度から始まった授業で、きっかけは、当時の校長であった奥田正直先生からの依頼であった。甲府商科専門学校の学生は、ほとんどが県内出身者で、ほとんどの卒業生が県内の企業に就職する。にもかかわらず、山梨のことを知らない学生が多い。そこで、山梨の経済や産業に関する講義を担当してほしいというのが奥田先生からの要望であった。

奥田先生からの頼みということもあって引き受けることにしたが、私が一人で講義しても、興味を持ってくれる学生は多くはないであろうと考え、アクティブラーニング型の授業を行うことにした。筆者は本務校である山梨学院大学において、「社会人基礎力育成」に取り組んだ経験があったので、その経験を活かそうと考えた。また、地域経済に関するビッグデータを集めた「地域経済分析システム(RESAS=リーサス)」も活用しようと考えた。

2007年、山梨学院大学は、経済産業省より「産学連携における社会人基礎力育成・評価事業」を受託した。社会人基礎力とは、職場や地域社会などで仕事をしていく上で重要となる基礎的な能力である。具体的には、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の三つを核とし、主体性、働きかけ力、実行力、課題発見力、計画力、創造力、発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力の12の能力要素で構成されている。

山梨学院大学におけるプロジェクトは「ブランニュー YAMANASHI 07」と命名された。地域の企業と一緒に、地域ブランド(地域における新しい商品)の創出に取り組むことによって、学生の社会人基礎力の育成を目指した。参加した学生は、1年生から4年生までの30人で、六つのチームに分かれて地域ブランドの創出を行った。関わった企業は、山梨放送、印傅屋上原勇七、はくばく、ヴァンフォーレ山梨スポーツクラブ、アド井上(現在のアドヴォネクスト)の5社であり、毎回の授業にそれぞれの企業の担当者が参加し、学生たちからの質問や相談を受けるメンター的な役割を担った。

約半年のプロジェクトであったが、企画立案時、中間時、終了時の計3回、チームによるプレゼンテーションをコンペ形式で行った。そして、終了時のプレゼンの評価が一番高かったチームが、山梨学院大学の代表として、「社会人基礎力グランプリ」に参加した。

社会人基礎力グランプリは、どの大学の学生が社会人基礎力を高めたかを争う大会で、当時は社会人基礎力育成・評価事業に採択された七つの大学が参加し、山梨学院大学は大賞に輝いた。

このことからしても、山梨学院大学は、社会人基礎力の育成に成功したといっても過言ではない。では、その要因は何だったのだろうか。筆者としては、「デザイン」「競争」「場」が重要だったと考えている。

先ず、このプロジェクトは、学生の主体性ありきのプロジェクトであった。参加した学生は、先ず個人的なフィールドリサーチによって山梨のニューブランドを考え、その後、マーケティングなどの知識を得て、次はチームに分かれてプロジェクトの企画立案を推進した。知識の再確認が各ステージにおいて行われ、学生はその都度、自分たちに何が不足しているかを認識できた。このような講義のデザインが有効であったと感じる。

次に競争だが、前述したように、プロジェクトの進捗に合わせて、チームによるプレゼンテーションをコンペ形式で行った。そして、終了時のプレゼンで、代表が決まるといった仕組みが、学生のやる気に火をつけたのではと思っている。

場に関しては、状況的な場と、物理的な場があると思っている。前者に関しては、1人の教員ではなく、複数の教員が関わり、更には、企業の方も毎回参加したことが、深い学びに繋がったと感じた。後者に関しては、毎回の授業をアクティブラーニングに適している「広報スタジオ」で、また、合宿をリゾートホテルである「リゾナーレ小淵沢」で行ったことなどが挙げられる。ちょっとした非日常的な要素が学生の気分を変え、集中が高まったのではないだろうか。

山梨地域経済概論㊦では、甲府商科専門学校における具体的な取り組みを紹介する。

お問い合わせ

ご意見・ご感想・ご質問など、こちらのメールフォームからお問い合わせください。

メールフォーム

記事の使用について

指定の申請書に記入してお申し込みください。FAXまたは、メールまたは、郵送でお申し込みください。

記事利用の申し込み