《直言》命を大切にする力育む教育を

2026.02.13

《直言》命を大切にする力育む教育を

私のライフワークはハイチ支援活動と医療ですが、令和2(2020)年7月から山梨県教育委員としての役割も担うことになりました。当時は新型コロナウイルスの感染拡大により、全国一斉の臨時休校という前例のない状況が続き、子どもたちの学びが大きく揺らいでいました。

私は勤務先病院の感染対策委員長として緊張の続く現場に立ちながら、当時小学4年生だった息子の学びをどう守るか悩んでおり、教育の課題は決して他人事ではありませんでした。この経験が、母親であり医療者でもある自分が山梨の教育にどう貢献できるかを考えるきっかけになりました。

教育委員会は「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」に基づき、教育に関する事務を担う合議制の執行機関です。山梨県教育委員会は教育長と5人の委員で構成され、委員会での合議により基本方針や施策を決定し、その執行を教育長が事務局とともに進めています。委員は多様な経歴を持つ方々で構成され、私は現在2期目を務めています。

教育委員の職務の中でも特に重要なのが総合教育会議です。知事と教育委員会が教育の課題や将来像を共有し、連携して取り組むために開催されます。令和5(23)年9月の会議では、山梨県教育大綱について協議しました。

大綱は、国の教育振興基本計画を踏まえ、地方公共団体が教育・学術・文化の振興に関する施策の根本方針を定めるものです。私はその場で「長い人生を幸せに生き抜くための礎となる健康教育の充実」を提案し、がん教育や性教育を含め、自分や他者の命を大切にする力を育む必要性をお伝えしました。

この議論をきっかけに、周産期医療の現実を描いた漫画「コウノドリ」(講談社)全33巻を県内の高校に寄贈する取り組みを思いつきました。性感染症、10代の妊娠、人工妊娠中絶、不妊症、ワクチン接種、LGBTQなど、学校では扱いにくいテーマを医学的に正確な情報に基づいて描いた作品です。作者の鈴ノ木ユウさんが甲府市出身であることも後押しとなり、クラウドファンディングで寄付を募りました。


2024年、山梨市内三つの中学校に「コウノドリ」を贈ったときの様子。左から3人目が筆者(筆者提供)


23年11月末から60日間の取り組みでは、多くの方々のご支援により、当初目標の85万円を大きく上回る124万円が集まりました。その結果、公立高に加え、私立高7校、甲府市立中11校、山梨市立中3校を含む計50校に寄贈することができました。生徒が借りた漫画を親御さんも読み、親子の会話が増えたという声や、この作品をきっかけに助産師を志した女子生徒の話も届いています。また、県外でも共鳴が広がり、愛媛県の医師が地元高校に全巻を寄付したという報告もありました。現在も、県内すべての中学校への寄贈を目指して活動を続けています。これまでに計63校の中高に寄贈しました。

教育委員会の事務局には多くの教員経験者が携わっています。教壇とは異なる難しさがある中で、子どもたちのために尽力されている姿に励まされ、私自身も教育行政を自分のこととして受け止めてきました。

これからも、子どもたちが自分の命を大切にし、他者を思いやり、未来を切り開いていけるような教育環境づくりに力を尽くしていきたいと思います。山梨の子どもたちの未来は、私たち大人の姿勢と行動にかかっています。その責任を胸に、歩みを進めていきたいと思います。


(ハイチ友の会代表 山梨市立牧丘病院副院長 小澤幸子)

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