2026.01.23
2025年10月21日の定例閣議で石破茂内閣は総辞職を決定し、同日召集された第219回国会(臨時会)において、高市早苗氏が内閣総理大臣に指名された。親任式・認証式を経て高市内閣が発足し、直後の記者会見で高市首相は「私どもの内閣といたしましても、国会議員から任命をされる、私を含む、総理大臣を含む閣僚等の給与につきましては、議員歳費を超える閣僚等としての給与を受け取らない法改正に取り組む所存でございます」と明言した。会見後の初閣議では早速、「特別職の職員の給与に関する法律(特別職給与法)」の改正方針と、改正法の公布・施行までは従前の閣僚の給与の一部返納を継続することが打ち出された。
特別職給与法改正案は、内閣提出法案として12月8日に衆議院へ提出され、11日に衆議院で、16日に参議院で、それぞれ一部野党を除く賛成多数で可決、成立した。改正法は、内閣総理大臣をはじめとする特別職の国家公務員の俸給月額を引き上げつつ、国会議員が内閣総理大臣、国務大臣、内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、副大臣、大臣政務官、大臣補佐官の職を兼ねる場合には、当分の間、行政庁から支給される給与(手当を含む)を支給しないことを附則で定めるものであった。
行政権を行使する内閣を組織する内閣総理大臣と国務大臣、それを支える副大臣や政務官らは、主として公選職の政治家がその地位を占める。彼ら・彼女らは政権与党の一員として行政府の中で政治的機能を果たしており、行政府の頂点に位置して行政各部を統べる執政の担い手でもある。改正特別職給与法は、立法府の一員たる国会議員という職の対価は支払うが、行政府の一員(トップリーダー)としての執政の対価は支払わないことを、「当分の間」と限定しつつも、制度化したと言える。
執政の対価をめぐっては、国のみならず地方でもさまざまな動きが見られる。
山梨県内では、昨年11月16日に執行された都留市長選挙において、身を切る改革を断行するために市長給与を4年間半額にすることなどを訴えた日向美徳氏が、大接戦の末に現職を制し初当選を果たした。12月10日には都留市議会で、「都留市長等の給与条例」改正案が可決され、市長の給料月額は82万円から41万へ半減となった。
県においても同時期に、知事の附属機関である特別職報酬等審議会が15年ぶりに開催され、知事の諮問に応じ、議員報酬や知事・副知事の給料の額の改定の必要性の有無などを審議した。10月と11月の2回の審議を経て審議会は、「今回は据え置きとし、今後の社会情勢を踏まえ、慎重に検討を行う」旨答申した。
全国に目を向けても、執政を担う首長など特別職の報酬をめぐり、さまざまな動きが見られる。最近目立つのは、人手不足、物価高騰、収益改善などを背景とする民間企業の賃上げを受けた一般職公務員の給与引上げ改定を踏まえ、特別職の報酬を増額改定する動きである。それとは逆に、減額の動きもある。たとえば、河村たかし氏の後継候補として24年11月の名古屋市長選挙で当選した広沢一郎氏は、公約の一つに前市長の看板政策である市長給与800万円の継承を掲げていた。昨年3月の名古屋市会で、「市長の給与の特例に関する条例」が可決、成立した。
地方自治法は、特別職を含む常勤の職員には給料及び旅費を支給しなければならず(204条1項)、条例により各種手当を支給することができ(同条2項)、給料・手当・旅費の額や支給方法は条例で定めなければならない(同条3項)、と規定する。また、給与その他の給付は、法律や条令に基づかずには支給することができない(204条の2)。これにより各自治体は、地方公務員法が適用される一般職の職員の給与条例や、同法が原則適用されない特別職の職員の給与条例を制定している。
一般職の職員の給与は、社会一般の情勢に適応する必要があり(地方公務員法14条1項)、職務と責任に応ずるものでなければならず(同24条1項)、生計費・国や他の自治体の職員と民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定める必要がある(同条2項)。給与改正の内容は、人事委員会が置かれている自治体では人事委員会の勧告などを受けて、それ以外の自治体では国や都道府県の勧告などを踏まえて決定され、給与条例改正案の成立を待って確定する。
自治体の執政を担う長など特別職の職員の給与の定め方は、一般職の職員のそれとは異なる。制度的には条例で自由に定めうるが、実際には、1960年代に発出された自治事務次官通知などにより形作られた考え方や仕組みによっている。特別職の職員の給与はあくまで、職務の特殊性に応じて定められるべきものであり、職務に対する対価と位置づけられる。
自治体によって制度設計の細部に違いはあるが、議員報酬の額や長などの給与の額に関する条例を議会に提出しようとするときは、附属機関である特別職報酬等審議会の意見を聴くものとされている。同審議会を構成するのは、区域内の公共的団体等の代表者やその他住民から長が委嘱する委員である。審議に際しては、国家公務員の特別職の給与改定、各自治体における特別職の職員に関する給与改定の経緯、一般職の職員の給与改定の取り扱い、他の自治体との均衡などが総合的に考慮される。社会経済情勢、自治体の財政状況、公務全体のバランスなどが強調されることもある。
こうした定め方ゆえ、人口規模や産業構造が類似する自治体の長の給与の額は、一定の幅はあるものの基本的には、ある程度近い水準に落ち着く傾向がある。政治信念を貫く、自身の不祥事の責任を取る、部下の職員の不祥事や不適切な事務処理に対する管理監督責任を取るといった理由で、一定期間あるいは任期中の給与の大幅減額も見られるが、例外的である。
ただし、最近では、市民意識調査の結果に応じて市長・副市長・教育長の給料を最大30%減額する仕組みを導入した寝屋川市、インターネット模擬投票の結果を市長の退職金の額に反映させる仕組みを導入したつくば市、市民満足度アンケート調査の結果に応じて市長の給料を減額30%から増額10%の範囲内で増減させる仕組みを導入した箕面市など、市政への市民の関心を高め、より多くの声を反映しようとする独自の試みも見られる。
国や地方の特別職の職員の給与をめぐる動きを見ると、増額するにせよ減額するにせよ、肯定的な評価もあれば否定的な評価もある。人々が一致して支持する給与の額は、おそらく存在しない。だが、納得感を高めることは可能であろう。
執政の価値は何か。その価値に見合う対価は幾らなのか。それを判断するためには、自治体であれば、長などの活動内容や活動量に関する積極的な情報発信、既存の給与改正プロセスにおける公開性や情報発信の強化、新たな給与改正プロセスの試行などが期待されよう。給与の増額や減額をゴールとせず、継続的で幅広い議論を呼び起こす起点としたい。
(山梨大学大学院 准教授 藤原真史)