2025.10.24
全国各地には、今でも路地横丁文化が色濃く残る場所がある。
戦後の復興期、闇市の名残として生まれた路地横丁は、庶民の生活と希望が交差する場所だった。狭い通りに人が寄り添い、肩を並べて杯を交わす。そこには、経済成長の光と影を支えた人々の物語が詰まっている。
新宿の「思い出横丁」、渋谷の「のんべい横丁」、吉祥寺の「ハモニカ横丁」などはよく知られているが、甲府にも、ふと足を止めたくなる小さな横丁がいくつもある。小さな店が軒を連ね、店内から笑い声と温かな灯りがこぼれる。
例えば、甲府中央商店街の一角にある歓楽街「裏春日」には、「オリンピック通り」や「たき通り」といった昔ながらの横丁が今も息づいている。
しかし今、その灯が揺らいでいる。
後継者の不在、老朽化、そして再開発の波。防災上の課題もあり、行政は「安全で新しい街並み」を求める傾向が強い。一方で、市民の間では「古いものを残したい」という声が高まっている。
近年、全国では「横丁の再生」を文化政策の文脈で捉える動きもある。
新宿の思い出横丁などは、単なる「飲み屋街」から「観光資源」へと姿を変えてきた。甲府もまた、歴史の記憶をまちづくりに活かす転換期を迎えているのではないだろうか。
こうした路地横丁文化を継承しようと設立されたのが「甲府ん!路地横丁楽会」(以下、楽会)である。路地横丁をこよなく愛する有志によって2014年に立ち上げられ、筆者も設立時から楽会員として携わっている。
UTYテレビ山梨は、特別番組「甲府中心市街地再発見!てっ!しらんだけ!甲府ん!路地・横丁」を8回にわたって放送。楽会のメンバーが店舗選定や取材内容などに全面協力した。
現在、楽会が主催する「甲府ん!横丁はしご酒ウィーク」が開催されている。
山梨日日新聞社と山梨放送が共催し、10月23日から11月1日までの期間、約50店舗が参加。「はしご券」を購入すれば、路地横丁の多彩な店を気軽に体験できる。
とはいうものの、路地横丁は単なる飲食の場ではない。
それは、人と人が肩を寄せる「距離の文化」であり、無名の人々が築いた「まちの歴史」でもある。コンクリートの街に残るその小さなぬくもりこそ、都市が持つ「人間味の最後の砦」なのかもしれない。
行政の再開発計画に、情緒や記憶は数字として現れない。
しかし、街が「どんな時間を生きてきたか」を見失えば、そこに人は集まらなくなる。甲府の路地横丁をどう残すか。それは単に過去を守ることではなく、未来に「まちの呼吸」を伝える試みなのだと思う。
この「はしご酒ウィーク」をきっかけに、甲府に息づく路地横丁の魅力を体験してみてはいかがだろうか。

楽会が発行した「甲府横丁マップ」
(山梨総合研究所 理事長 山梨学院大学 名誉教授 今井 久)