「山梨新報」2017年6月9日掲載
中央自動車道都留インターチェンジ西側に位置する金井地区には、スイレンの名所で知られる古刹(こさつ)・桂林寺境内に「叶(かのう)が池」がある。この池ではかつて雨乞いを行うと必ず雨が降り、願いがかなうため別名「叶井(かない)」と呼ばれたこともあった。現在の地名「金井」は池の名にちなんでつけられたという。
江戸時代の地誌「甲斐国志」によると、金井は桂林寺敷地内にある叶井と呼ばれた古井戸が村名の由来で、江戸初期の寛文検地帳には叶井と記されているという。同市郷土研究会編「都留市地名事典」では、村名の叶井がいつから金井と記すようになったかは不明としている。
この古井戸が現在の「叶が池」になったとみられている。同市老人クラブ連合会編「都留の民話」(1971年)には、同地区に住む佐藤七郎さん(当時72)の話として、傍らに弁財天がまつられている叶が池では、干ばつの際に村人が雨乞いに集まった。池の水をきれいにし一心不乱に祈願すると、空がにわかに曇りだし、慈雨に恵まれたため、必ず願いがかなう池として、いつしか「叶が池」と呼ばれるようになり、霊験あらたかだと集落の人たちは信じ、地名のもとになったという。
同郷土研究会元会長の内藤恭義さん(85)の話では、雨乞いの儀式は、池をかき回し、酒を手向けて祈りをささげる。必ず雨が降ると信じられ50年前にはまだ行われていたが、時代の流れでいつの間にか儀式は絶えてしまったという。
一方、都留文科大民俗学研究会編「金井の民俗」(67年)では、雨乞いの話のほかに、弁財天に願をかけると必ずかなうことから村名を叶井、現在金井になったと紹介している。
桂林寺によると、同寺は明徳年間(1390~94)に建長寺(神奈川)の格智禅師が開山、郡内領主の小山田信澄が創建。その際に水や財宝、縁結びの神として知られる江島神社(同)の弁財天を勧請し、池のそばにまつったと伝わる。織田宗覚住職(69)は「私自身は雨乞いの儀式を見たことがないが、池は日照りが続いても枯れたことは一度もなく、どこからか湧いている。願いがかなう場所として、お参りに来る人が時々いる」と話している。
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