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2010.8.20 
豪腕
 「退院したら、1杯やっちゃー」。最後の言葉だった。有名歌手さえも冒された病。再入院したが退院はかなわなかった。久親会最高幹部だった山野慶蔵氏が死去した。享年86。飛ぶ鳥を落とす勢いだった金丸信元自民党副総裁の城代家老として、その権勢をときどきの場面で使いこなし、金丸―望月蜜月時代を陰で支えた。
 山野氏の政治的豪腕ぶりは望月幸明知事後援会「明山会」を見ればよく分かる。市町村長を軒並み支部長に仕立てた。田辺国男氏支持の首長を含め、望月県政に対する踏み絵だった。当時、複数の首長は県を窓口として支出される各種補助金、公的施設建設場所などに「忠誠度が反映された」と明言した。明確な見返りと忠誠。それが知事選では市町村長が先頭に立って旗を振る集票マシンに変えた。望月県政を強固にするためには、手段を選ばない〝豪胆さ〟もあった。望月県政に批判的だった島津庄次県議に刺客として早河正弘元一宮町長を送り込み、県議の椅子を奪おうとした1987年県議選東八代選挙区が典型的だ。この時は両陣営が死に物狂いの攻防を展開、その結果、島津、早河両氏は当選したが、無関係だった現職前島茂松氏が1票差で落選。前島氏は当時「通行人が流れ弾に当たったようなものだ」と悔しがった。こうした山野氏の豪腕ぶりを実質的に支えたのは望月県政の大きな基盤だった建設業界だったといわれる。知事選勝ち組、負け組に二分された業界は県発注工事に極端な優劣がつけられた。一定の影響力を持った山野氏は、望月氏の県庁時代の部下で、同様に業界に浸透した河野義和氏とともに「YK」と呼ばれ始めたのもこのころだ。ここでも明確な見返りと忠誠という論理が幅を利かせ、やがて山野氏はこの業界を、選挙の際「人と金」を拠出させる強力な戦闘集団に変えた。
 天野建県政移行後も、その存在感は際立った。1991年知事選に敗れて以降、山野氏は旧社会党県本部の元国民運動局長・土屋要氏らと共に天野県政支持を打ち出す代わりに、通称「CSの会」を立ち上げた。CSとはチェックアンドサポートの意。監視しながら、支持する、という挑戦的名称だった。顔ぶれは輿石東、中島真人の自社現職参院議員はじめ久親会系の自民、社会両党県議、さらに「いつでも擁立できる」と言わんばかりに一時は知事選候補とも目された辻一幸早川町長や斉藤公夫元八田村長らが名を連ねた。このあたりの人選に山野氏の政治的なしたたかさがうかがわれた。CSの会だけではなく、山野氏は当時代議士だった横内正明、輿石、中島、清水達雄の峡北出身4国会議員を囲む会も開催。峡北出身知事を待望するかのように時の天野県政を揺さぶり続けた。ただCS、峡北どちらも即決起の空気は薄く、山野氏にとっては、むしろ臥薪嘗胆、将来を展望しながら望月県政誕生の原動力となった保革勢力の維持を最大の狙いにしていたようにも見えた。
 山野氏が昭和の知事選史でキーワードとなった保革連合の最大の仕掛け人だったことはよく知られる。その後、徐々に県政の表舞台から遠ざかるが、保革連合で戦った山本栄彦前知事が再選を目指した知事選で敗北した際、その一因を、久親会関係者は当時、「名ばかりの保革。ばらばらだった。統率する人物、例えば山野氏のような保革の真のコーディネーターが不在だった」と嘆いた。豪腕を貫いた強い意思と清濁併せ呑む器量。時あたかも次期知事選論議が始まるさなか、過去の知事選史を太く、強く彩った人物が逝った。

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