5月5日付
甲府駅北口再開発

「ヨコ型ガバナンス」 の実験場に

課題は若者呼び込むしかけ
大学間連携による共同授業も


 甲府市は先月26日に発足した 「シビックコア地区整備推進連絡協議会」 で甲府駅北口駅前開発計画の街区配置などを発表した。ここには 「よっちゃばれお祭り広場」 や 「駅前広場」 のほか、新県立図書館を中心とする県の生涯学習関連複合施設、NHK甲府放送局、国の合同庁舎などの建設が計画されている。
 この発表には、昨年7月 「広報こうふ」 に掲載された計画と若干の変更がある。その中でも、NHK甲府放送局の位置の移動には大きな意味が込められている。
 昨年の春にこの計画が報道されたとき、私をはじめ県内考古学関係者は大きな不安を感じた。「29号街区」 と呼ばれるNHK進出予定地には、かつての甲府城の北西の隅にあった乾櫓(いぬいやぐら) (富士見櫓) 関連の遺構がある可能性が高いからだ。専門家によると、間違いなくこの下には関連遺構があり、場合によっては甲府城内堀の北西隅の石垣が現れることもあるという。
 私たち県考古学協会関係者はNHK甲府放送局長に事情を説明し、昨年8月27日には宮島雅展市長に計画の見直しを要望した。そのとき、方向性として提案したのが、遺構のある可能性が高い29号街区を当時の計画にいう 「多目的広場」 にあて、NHK甲府放送局は、すでに発掘調査の終わっている多目的広場の予定地に建設するという交換案だった。
 宮島市長は早速に関連地域の地中レーダーなどによる調査を指示し、昨年11月末にその結果が出た。石垣列はやや北側になるようだが、29号街区は甲府城の北西隅の重要な位置に当たることが明確となった。そして、今回の計画では、私たちの提案がほぼそのまま実現した形となった。
 行政が一度公表した計画を市民の提案で変えるというのはなかなか難しいことだ。それをあえて行った市長ほか、甲府市関係者の勇断には敬意を表したい。そして、「よっちゃばれお祭り広場」 にはここがお城の北西隅に当たることを何らかの形で表現する工夫をして欲しい。この位置から線路を隔てた稲荷櫓を望むと、かつてのお城の大きさがしみじみ実感できるからだ。
 さて、この北口再開発には大きな課題がある。それは市内中心部に賑わいを作り出す 「しかけ」 だ。県の複合施設にはこの点で大きな期待がかかる。従来のイメージを一新するアイデアで集客機能を持つことが重要だ。NHK甲府放送局も従来のままでなく、県民が自由に出入りして、賑やかに番組作りやイベントができるような場にしたい。近接するYBSとも連携したり競い合ったりして賑わいの相乗効果を狙いたい。  その場合に、思い切って若い世代をターゲットにしたらどうだろうか。教養や勉強の場の提供というような固定観念を捨てて、ロックバンドの練習場やミニ・コンサートが出来るスペースをたくさん作る。運営もかなり若者主導にする。これからの計画作りに若者代表を加えることから始めたい。
 若者を中心部に呼び込む 「しかけ」 として、県内大学の連携 (コンソーシアム) による共同授業の場を北口の複合施設にするという案も面白いのではないか。県内には性格の違った大学がいくつかある。この授業のなかで普遍性があり、他大学生からの要望の高いものを共同化し、これを新拠点で開講するのだ。そこは所属を超えた大学生の集まる場になるし、授業後はイベントの場や語らいの広場で交流もできよう。
 この大学コンソーシアムは山梨学院大学の同僚黒沢惟昭教授のかねてからの構想である。これには県内大学が連携することによって魅力を倍増し、若者の山梨離れを防ぐという意味も込められている。また、大学人がいい意味で競争を意識し、活性化につながる意味もある。この構想はすでに一部で動き始めている。
 21世紀はタテ型の統治 (ガバメント) からヨコ型の協働管理 (ガバナンス) に変わる時代といわれる。行政が一方的に決めるのではなく、さまざまな層や団体の連携を図って衆知を集め、討議のなかで新しいアイデアを作り出して行くのだ。そんな新しい政策決定方式の実験場として、北口開発を見守りたい。



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